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私の「北越雪譜」半世紀 8 雪の季節を迎える

鈴木牧之suzuki bokusi

鈴木牧之

その8 雪の季節を迎える

 ここからは北越雪譜の内容に入ってゆくことにする。
 雪を迎える用意として「雪もよひ」「雪の用意」「初雪」などの項目がある。ここでは「雪もよひ」「雪の用意」を要約してみよう。
     雪もよひ
 越後における雪のきざしは暖かい国と同じではない。大体九月の半ばより霜が降るが、寒気が次第に激しくなる九月の末になると冷たい風を肌に感じ、冬枯れの木々は葉を落とし、雨のため太陽を見ない日が続く。こうしたことが雪のきざしになるのである。このようにしてはっきりしない天気が数日続くと遠く近くの高い山に、白を点じたように雪を見ることができる。これを里の言葉で「嶽廻(たけまわり)」という。また、海岸地方では海鳴りがして、山奥では遠雷のように山が鳴る。これを里言葉で「胴鳴り」という。こうしたことを見たり聞いたりして、降雪が遠くないことを知るのである。その年の寒暖によってその日ははっきりしないが、「嶽廻」「胴鳴り」は秋の彼岸前後にある。毎年そのようになっている。
    雪の用意
 前にも書いたが、雪が降る時期を考え、雪の被害に遭わないように屋根にそのような工夫をほどこし、梁や柱、庇(家の前部にある庇を、里のことばで「ろうか」という。廊下である)、そのほか、部屋に力がかかるところや弱いところに手を加える。雪に潰されないようにするためである。庭の木はその大きさに従って枝を曲げて縛りつけたり、杉丸太や竹を副木として枝を強くしておく。雪の重さで折れることを防ぐためである。草の類はコモやムシロで覆っておく。井戸には小屋をかけ、厠も雪の中での備えをする。雪中に野菜はまったくないから、その家の人数によって食料を貯える(あたたかな土中に埋めたり、ワラに包んだり、桶に入れて凍らないようにする)。このほかにも雪に対するさまざまな備えをするが、それらはここに書ききれないほどある。

 十月もすえになると、この地方では木枯らし一号が吹き、雪の季節を迎える。連日冷たい雨が続き、それが霙に変わる。木々は紅葉から落葉に変わる。そして高山の頂上が白くなる。小国では黒姫山の頂上だけが白くなるのを笠雪と呼び、麓まで白くなるのを蓑雪と呼ぶ。黒姫の三度目の雪が里の初雪となる。北越雪譜では「雪意」とかいて「ゆきもよひ」とルビを振っている。事典にはゆきもよい【雪催い】と書いて「今にも雪の降りそうな空模様」と解説されている。
    雪催木桶二つに水張られ   茨木和生
のように俳句の季語としても使われている。

塚山峠吹雪の図
 雪の季節を迎える山里は忙しい。冬の間の燃料のボイや薪を家の中に取り込み、食料も一冬分を蓄える。大根は玄関入り口付近に藁を厚く円筒形に巻いて、その中に蓄える。それを大根タテと呼んでいる。その他沢庵漬けに塩を入れて大きな樽に漬け込む。野沢菜も野沢菜漬けにする。ジャガイモ、サツマイモ、サトイモ、ネギ類も蓄える。家によっては、床下に穴を掘り、その地下穴に入れて蓄えることもある。
 家の周りも雪の準備で忙しくなる。窓という窓には厚い羽目板が鎧のようにはめ込まれ、雪の重さに耐えられる備えが必要である。土台と床の間の隙間にはマッコとよばれる藁を円筒状に丸めた材料でふさぐ。かんじき・藁沓・コスキなどの防寒具・履物・除雪具も手入れしておかねばならない。
 こうした雪の準備も今はすっかり変わってしまった。薪から灯油・ガス・石油と燃料の変化、雪道も車がスムーズの走れる除雪機械、屋根雪を自然に滑り落ちる滑雪屋根の出現、コスキに変わる機械除雪機、手押しのスノーダンプなどの除雪器具に変わってきた。
 それに伴ってロータリー除雪機に人が巻き込まれるような新しい事故も起こるようになった。吹雪で道が閉ざされ、車が立ち往生して車の中に排気ガスが充満して死亡するような事故も起こる。人々の雪に対する対処方法は変わってきても、雪の危険性は昔とあまり変わらない。


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