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第三小説集『さつきの花』 | 著書紹介

著書紹介book

第三小説集『さつきの花』を紹介します。

さつきの花  高橋 実/著

第三小説集『さつきの花』
あとがき

高橋 実 

 『さつきの花』は、私の第三小説集である。『雪残る村』が昭和四十九年、『紙の匂い』が昭和五十五年、そのあと十年目にして小説集を出すことになった。第一小説集と第二小説集の間が六年だったのに、今回は十年たっている。それなのに、その量、質とも矮小な感は否めない。ここに収めた九編は、ほとんど短いもので、自分でも十分書き込んでいないと認めざるをえない。この十年間で、小説への意欲が希薄になったと思われてもしかたがない。
 この中の最初の一編「雪に包まれる村」は、昭和三十六年、同人雑誌『笛』にのせた、私の処女作といってもよい作品である。これは、当然『雪残る村』に載せるべき作品であった。驚いたことに、こんな作品を、自分で書き、発表していたことを忘れていたのである。今にして思えば、これが「雪残る村」の原型であった。稚拙な作品ながら、わが青春の息吹がいたるところに感じられ、どうしてものせておきたかった。したがって、そのあとの「はらから」との間に、二十年のブランクがあり、この間に、第一、第二小説集がすっぽりとはめこまれてしまうわけである。
 今まで、小説と研究の二足のわらじをはいてきた私は、ここ二、三年地域の文化運動と、その拠点としての雑誌の編集の仕事が加わることになった。この中の三編は、その雑誌に発表したものである。こうした運動の中で、地元の若い人たちとも接することが出来た。表紙の切り絵は、その中のひとり、広田忠俊氏のものである。そうした中で、地域おこしや過疎問題シンポジウムのパネリストにまでひっぱり出されるしまつである。小説への比重が、その中で軽くなってきたのもやむをえないのかも知れない。
 ことしは、わが人生も五十年代の入口に到達する。これから、いったいどこに向かってたゆとうとしているのか。しばらくおのが興味のおもむくままに身をまかせるしかないと思っている。
 『紙の匂い』の出版は、一家四人、郷里小国町にひきあげてまもなくのことであった。あの時、小学校二年で転校した長男も、ことしは大学三年になり、松本市に住む。長女も高校二年、冬は長岡に下宿する。元気だった父母も昨年あいついで、八十四歳で他界した。家は、わが夫婦二人になってしまった。これが十年の年月の流れである。
 昭和六十二年春に、現任校に転勤し、生涯病気を背負って生きてゆく生徒たちに、日々接することになった。小学校のはじめ、二、三日風邪で休んで以来、今日まで病気のために学校や勤めを休んだことのない私も、五十歳代の入口に立って、人生の峠もこえ、体にも自信がもてなくなってきた。病気や死というものが、人間にとっていかに重大なものであるか、ここにきてようやく知らされることになった。これが「心までは萎えず」の作品になった。この中でまた新しい世界に踏みこんだ気がした。
 『紙の匂い』のあとがきで、作品集は、「私自身が建てる一つの紙の墓、おのれが籠もる繭」といった。ここに、また一つわが墓碑銘を書き加えることができた。
 今回もまた越書房の関徹氏の手をわずらわすことになった。この人の本づくりにかける誠実な人柄にお礼申しあげたい。表紙の切り絵をいただいた広田忠俊さんとともに。
  一九九○年一月
                          高 橋  実


 
■ 目次 ■ カッコ内は発表誌

 雪に包まれる村   (笛    第七号   一九六一年六月)
 はらから      (北方文学 第二十九号 一九八一年六月)
 活字        (北方文学 第三十一号 一九八三年十二月)
 さつきの花     (北方文学 第三十三号 一九八四年二月)
 彼岸すぎても    (北方文学 第三十四号 一九八五年二月)
 漉き舟の水     (へんなか 第一号   一九八八年四月)
 瞽女の墓      (へんなか 第二号   一九八八年九月)
 船頭福沢熊次翁聞書 (へんなか 第三号   一九八九年一月)
 心までは萎えず   (北方文学 第三十八号 一九八九年一月)

 

本書で紹介されている著者略歴

1940年新潟県刈羽郡小国村楢沢に生まれる。長岡高校を経て1963年新潟大学教育学部卒業。中学・高校教諭を経て現在県立柏崎養護学校教諭。「小国芸術村」現地友の会事務局長。高校時代から新聞に童話を投稿し、雑誌『笛』に加わる。以後『文学北都』同人を経て現在『北方文学』同人。1965年「雪残る村」が第52回芥川賞候補となる。

著書 『雪残る村』 (新潟日報事業社)
   『紙の匂い』 (越書房)
   『校註北越雪譜』 (共著、野島出版)
   『北越雪譜の思想』 (越書房)
   『鈴木牧之全集』 (共著、中央公論社)

 

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