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『北越雪譜の思想』 | 著書紹介

著書紹介book

『北越雪譜の思想』を紹介します。

北越雪譜の思想  高橋 実/著

『北越雪譜の思想』
あとがき

『北越雪譜』は、新潟県の雪の原点である。その書名もますます知られるようになり、名著としての評価は年を追うごとに高まった。今から二十年前、私がこの書を卒業論文に選んだころ、作者の「牧之」を「まきゆき」とよんだ友人もいた。ここ二十年のこの書の普及は、めざましいものがある。昭和四十五年に出された『校註北越雪譜』(野島出版)は、すでに十三版に達した。
 こうしてこの書が、多くの人に読まれている反面、この書の研究書は、驚くほど少ない。『雪譜物語』(松岡譲、積雪科学館、昭28)や『牧之』(鈴木牧之顕彰会、昭36)を除けば、皆無といえる。同じ越後の良寛の研究書が、県内県外を問わず、次々と出されるのに比して、なんというさびしさであろう。
 ことし昭和五十六年、牧之の生地塩沢町では、没後百四十年祭の行事が挙行された。昭和三十六年五月、当時、まだ大学三年で学生服のまま塩沢町を初めて訪れてより、すでに二十年が経過したことになる。よくも悪くも、二十年間の私の仕事が、本書となった。はたして、どれだけ『北越雪譜』の真実に迫ることができたか、今読み返して忸怩たるものがある。二十年間にいろいろなところに発表した拙論を並べたてたので、いたるところにつぎはぎ細工の破綻や重複を生んでいる。また長い間に、私の考えも少しずつ変化している。読んでいただく方には、読みにくい点もあろうが、読んでいただ いたあと、いろいろな不備な点や間違いを指摘していただけたらありがたい。
 私の牧之研究をふりかえってみるに、牧之の個性のみあまり強調しすぎて、歴史や社会の中に嵌めこまれた人物としてとらえることに欠点がある。むろん、今までだれも書かなかったこの『北越雪譜』を出版しようとしたのだから、牧之には強烈な個性があったには違いないが、それ以上に、歴史的、社会的な制約も強かったはずである。私が、『北越雪譜』を文学としてとらえようとしたために、こういう欠点を生むことになった。
 中央公論社で『鈴木牧之全集』の刊行計画が進められている。ここには、晩年の「遺書」や戯作「塩冶判官一代記」なども、収載されることになっている。この計画は、四十八年以来、すでに八年も経過しているのに、今だに刊行のメドがたっていない。編者の一人として、やるべきことはすべてやってきた。一日も早く、この全集が刊行されることを祈ってやまない。一行の資料は、十行の研究に優る。
 私の仕事は、宮榮二、井上慶隆両氏の励ましがなかったら、ここまでやってこれなかったであろう。 地元塩沢の井口修治、平賀馨、そして長恩寺の奥様にも多くの手を煩わした。その井口氏は、もうこの世におられない。明治大学の水野稔氏には、いつも私の気まぐれの相手になっていただき、馬琴側の牧之資料について、丁寧な御教えをいただいた。また、拙論のおもな発表場所として『北方文学』の同人たちから、いつも批評してもらった。本書も越書房の関徹氏のお世話で世に出る。一冊の書物が、出版されるために、多くの手を煩わすことになる。こうした方々に心よりお礼申し上げたい。
 ここまできて、私はもう牧之という人物にすっかりのめりこんで、あとに引き返すことはできない。生涯にわたってかかわる人物になるであろう。拙著をたたき台として、今後ますます、牧之研究がすすむことを祈ってやまない。

  昭和五十六年八月二十二日
                                 高橋 実


 
■ 目次 ■ カッコ内は発表誌

T 北越雪譜の思想
 一 北越雪譜の思想(「北方文学」11号  1971年6月)
 二 北越雪譜と雪国の人生(「雪月花」6号  1978年9月)
U 北越雪譜の成立と展開
 一 山東京山と北越雪譜(「阿達義雄博士退官記念論集」  1971年6月)
 二 苗場山記行と北越雪譜(「越佐研究」20集  1963年12月)
 三 北越雪譜の文学性(「高志路」198,199号  1963年5,8月)
 四 説話群にみる剛気の系譜(「北方文学」19号  1976年3月)
V 江戸文人との交流
 一 牧之にとっての江戸文人(「北方文学」24号  1978年7月)
 二 馬琴日記にみる牧之(「新大国語」2号  1975年3月)
 三 馬琴と越後雪譜(「国語と国文学」55巻11号  1978年11月)
W 鈴木牧之の人間像
 一 「古風」を凝視する牧之の歴史意識(「北方文学」27号  1979年12月)
      ―秋山記行論―
 二 六人の妻にみる牧之の聖と俗(「北方文学」17号  1975年3月)
 三 夜職草にみる家長牧之の「家」(「北方文学」23号  1977年11月)
X 鈴木牧之年譜稿
 鈴木牧之年譜稿(「新大国語」3号  1977年3月)
Y 雑  稿
 一 牧之の肖像について(「魚沼文化」13号  1980年1月)
 二 長沢赤水「北枕」中の牧之記事(「ペナック」創刊号  1976年7月)
 三 牧之のエロス(「ペナック」4号  1979年7月)
あとがき
著者の牧之・雪譜関係論稿一覧


〈本書所収外の牧之関係論稿(本書で紹介されているもの)

●北越雪譜の研究   「高志路」194-197,200-224  1962年12月-1972年12月
●秋山記行―実録と戯作―        「近世文芸」11号  1964年11月
●馬琴と牧之の交流           「近世文芸」14号  1968年6月
●鈴木牧之「広大寺躍」について     「越佐研究」27集  1969年3月
●文学としてみた北越雪譜    鈴木牧之二百年祭記念集  1969年10月
●雪国の心を伝える―北越雪譜の世界―  「国語通信」165号  1974年8月
●遺書にみる晩年の牧之像        「北方文学」16号  1974年8月
●北越雪譜に載らなかった二十村闘牛図  「ペナック」2号  1977年7月
●鈴木牧之の子孫たち          「ペナック」5号  1980年7月
●鈴木牧之と妻有郷            十日町新聞 1980年9月5日-10月2日
●秋月庵牧之の俳句            小出郷新聞 1981年1月1日
●北越雪譜雪掘りの図に思う        十日町新聞 1981年2月5日

 

本書で紹介されている著者略歴

1940年新潟県刈羽郡上小国村楢沢に生まる。
長岡高校を経て1963年新潟大学教育学部卒業。
中学校教諭を経て現在県立小千谷西高校教諭。
在学中から北越雪譜の研究をはじめる一方,小説にも意欲を示し,1965年「雪残る村」が第52回芥川賞候補作となる。現在『北方文学』同人。日本近世文学会会員。
著書  小説集『雪残る村』(新潟日報事業社)
    『校註北越雪譜』(共著,野島出版)
    小説集『紙の匂い』(越書房)

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