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はじめに | 長岡市の民話

はじめに(越後の昔話)katari

はじめに

『越後山襞の語りと方言』より | 長岡市の民話

 
はじめに 長岡に伝わる民話

 四月に新しい長岡市が誕生して長岡市もずいぶん広くなった。これから年末まで約三十回にわたって、「長岡に伝わる民話」と題してこの貴重な紙面を借りて長岡市に伝わる民話を紹介しながら、解説を加えて、この稿を書き進めていきたい。
 長岡は、水沢謙一氏(個人的にも水沢先生と親しく交流があったので、氏というより、先生と呼びたいのだが、個人的感情はここでは極力抑えてこう呼ばせて頂く)という民話の採集家・研究家を生んで、たくさんの民話が活字化された。その民話のいくつかを取り上げて、底に流れる思想(この言葉にも抵抗がある。むしろメッセージといってもよいかも知れない)とも言うべきものを手探りで探してみたい。
 もとより、私は、民話にどれだけ精通しているわけでもなく、独断や偏見が多くなることをお許しいただきたい。

越後山襞の語りと方言

 そもそも、民話という言葉を水沢氏は好まなかった。昔話という立派な言葉があるのに、なぜ民話という言葉を使うのかといわれていた。民話という言葉は、戦後大ヒットした木下順二の戯曲「夕鶴」からひろまったことばで木下氏は「民話とは、民衆生活の中から生まれ、民衆によって口から口へ伝えられていった民間説話一般を指すものと理解してよいと思う」といっている。この言葉には、昔話の再話化への思想があると日本民俗学会会員だった水沢氏は考えていたのではないだろうかと思う。
 長岡の民話と銘打っても、長岡しかないというようなものはない。北海道から沖縄まで共通なものがほとんどである。ただ、全国共通といっても、一字一句同じものはない。これが口承文芸といわれるもので、文字を介していないので、口から口へと変わるたびに、少しずつ変化してくるのである。隣のおばあさんが語る昔話と斜向かいのおじいさんが語る昔話は同じ話でも少しずつ違っている。民話は、社会的産物であるとともに、個人的な産物としての性格を色濃く持っている。
 伝説が特定の地域や地名と結びついているのに対して、昔話は地域を限定しない。「昔あるところ」という形で、時も場所も一般化され、この話が作り物・フイクションであることを強調する。そこに登場する人物も、多くは、「爺さ」「婆さ」「アンサ」「アネサ」という名前で、特定人物をさしていない。語りだしの「むかしあったてんがな」という「てんがな」は、「あったということだ」と間接話法を用いている。このあいまいさが、民話の特徴である。伝説のように聞き手に緊張を強いることがない。ここに昔話の魅力がある。そして、「さーす」とか「さんすけ」のように、聞き手にも相槌を要求する。この相槌は「さようでございます」の変化といわれる。
 民話は話し手と聞き手がともに作ってゆく世界である。聞き手も参加するという意味で、民話の語りには、聞き流しだけでは、通用しないという重要な要素が含まれている。現代において、聞き手にこれだけのことを要求する語りが他に存在するであろうか。
 結句も「いきがポーンとさけた」「いきがふっつぁけた」というふうに語って終わりとなる。「いきがさけた」は「一期栄えた」から変化してきたといわれる。
 民話は、語り出しから結句まで区切られた世界である。これによって現実が区切られ、空想の世界に飛躍する。そのバーチャル空間・仮想世界には、動物も人間と話ができ、水の底にも、地下の世界にも、雲の上にも、自由に行き来する事ができる。死んだ人間が生き返ることもできる。
 水沢氏の懸命な収集活動で、新潟県の民話が数多く文字に記録され、百話クラス、二百話クラスの伝承者を発掘することができたが、文化の吹き溜りといわれる、県内の山襞の里に、語り婆さん、語り爺さんを生み出したのは、雪深い越後の風土の産物でもあった。半年の間、深い雪に埋もれて、生活の場面を限定された人々は、囲炉裏の周りに集まって民話に興じてきた。それが人々の心を育ててきた。これこそ形はないが、心の貴重な文化遺産といえる。「フクの物はフクの好き」(フクはヒキガエルの方言)ということわざは人の干渉を拒否することわざであるが、サルとヒキガエルの餅競争で、臼に入った餅を山の上からころがして、早く追いついたものが食うことにしようと賭けをして、サルは臼の後を追いかけて下まで行ったのに、臼の中の餅は、飛び出して、途中の木の枝に引っかかる。それを後から追いかけてきたヒキガエルが手に入れて、食べていると、サルがそれを見て、食べ方を干渉する。そのときのヒキガエルの答えが、ことわざとして日常生活に密着している例である。
 テレビの導入から半世紀、二十四時間垂れ流される映像が次第に飽きられ、再び、生の語りに人々が興味を示すようになって来た。この原稿によって民話のすばらしさを感じてもらえたらうれしいことである。


 
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<本の事項>
越後山襞の語りと方言
著者名 高橋 実/著
出版社 雑草出版
出版地 長岡
出版年 2007年
定 価 2200円+税
ISBN 4-903854-00-7

越後山襞の語りと方言

・ご購入を希望の方は高橋実(0258-95-2340)までお問い合わせください。

 

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