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三枚のふだ | 長岡市の民話

三枚のふだ(越後の昔話)katari

三枚のふだ

『越後山襞の語りと方言』より | 長岡市の民話

 
三枚のふだ

 あったてんがの。あるろこへ和尚と小僧があったてんがの。和尚が「小僧、小僧、今日は天気がいいすけ、山へ行って、お花取ってきてくれ。札を三枚やる。火の札、水の札、山の札の三枚を何かあったら一枚ずつ投げれ」とようたと。小僧は、山へ花取りにでかけたてんがの。ずんずん山の奥に入っていったろも、その日はまだなんにも花が咲いていなかったと。いくらいっても花はないし「こらおごっだ」と思うているうちに、日がくれてしまった。あっち見たり、こっち見たりしていたら、向うの方にポカポカとあかりがめえたと。小僧は「あそこへ行って泊めてもらおう」と思って行って、一晩宿をたのんだと。奥から年寄りのばさが出てきて、「おら家はなんもねえろも、よかったら泊まれ」とようと。ばさは裏へ行って小石を拾ってきて、いり鍋に入れてガラガラといっているてんがの。小僧は「こらおおごとら。石なんか食わんねえがね」と思うておっかなくてどうしょうもねえろも、どうすることもならんと。そのうちに、ばさが「さあ小僧、豆いったすけ、食いや」とようて、自分でも、ガリガリ食うているてが。小僧は、その小石を食うまねしちゃ、ほどこに入れて知らん顔していたと。ばさが「小僧、小僧寝ろいいや」とようろも、小僧は、おっかなくてどうしようもねえろも、仕方がねんだんが、ばさと寝たと。小僧が寝たまねしていたら、ばさが、小僧のからだをなぜて「手から食おうか、足から食おうか」とようていらずっていたてんがの。
 小僧はおっかんくてどうしようもねえし、逃げようと思って、「ばさ、おれあっぱが出る」とようたと。ばさが「寝ててこけ」とようんだんが、小僧は「おれあっぱがたれこちらすけ、どうでも便所にやってくれ」と頼んだと。ばさが、「ほうせばおれが、綱つけておくすけいってこい」とようたてんがの。小僧は腰に長い綱つけられて、ちょうずばにいったてんがの。ほうして、「ちょうずばの神様、どうか助けてくんねせえ」と頼んだてんがの。ほうしるんだんがばさがごうやいて「小僧め、いつまであっぱこいてけつかる」とようて、その綱こうぎに引っ張ったてや。ほうしら、ちょうずばの柱が抜けて、ばさのろこへ飛んできたてが。ばさは「小僧め、おれたらかして逃げやがった」とようて外へ、飛んで出たれば小僧は向こうの方へどんどん逃げて行くがんだと。ばさは「小僧待て、待てえ」、小僧の後をドンドンぼっかけてくると。ほうして小僧は、じっき続かれそげになるがんだと。ほうしるんだんが、小僧は和尚さんからもらった札を出して、「大山になあれ」とようて、ゴーンと投げたと。ほうしたればばさの前にこってえの山ができたと。ばさは山越して、じっき続かれそげになったと。小僧はこんだ水の札出して、「大川になあれ」というたと。ほうしたれば、こってえの川がばさの前にできたと。だろも、ばさは、その大川をジャブジャブこいでぼっかけてくるてが。ほうしてまた続かれそげになったと。小僧は気いもんで「あと一枚しかないがんに」と思って、火の札取り出して、「大火事になあれ」とようて、ゴーンと投げたと。ほうしたれば、そっこら中が大火事になってぼんぼん燃えているてんがの。そのこまに小僧は、やっとお寺に逃げてきたと。ほうして、「和尚様、鬼ばさがぼっかけて来て、ここへ来るてがに。早、隠してくんねせえ」とようたんだんが、和尚様はやっと戸を開けたと。ほうして「さあ入れ。隠してくっる」とようて、こもにくるんで、なわでしばって、井戸の天井にいつけていらしたと。そこへ鬼ばさがとんできて聞くんだんが、和尚様は「小僧なんか、こねえ」とようと、ばさは「いや、来たはずだ」とようて、帰らんかったと。しまいに、井戸の中をのぞいてみたれば、自分の顔が映ってめえたと。「小僧め、そこへけつかったか」とようて、井戸の中へ落ちたと。ほうしると和尚様と小僧は二人して、井戸の中へ石をどんどん投げたと。ばさは井戸の中で「ありゃあ」とようて死んでしもうたと。いきがさけた。

【出典】「越路町双書『ムジナととっつあ―高橋ハナ昔話集』」平成七年 越路町 要約
【解説】
 呪的逃走といわれる逃竄(とうざん)譚の代表である。魔法の札から障害物を出して逃走する。「古事記」などでイザナギが櫛や桃を投げて黄泉の国の追っ手を振り切って逃走するモチーフは神話時代に遡ることができる。神秘的な力を持つ呪物であるお札で危難を救ったり、幸福をもたらすという話は日本だけでなく、昔話世界では、全世界に分布する。便所に貼った札が人の代わりに答えてくれるなど便所神信仰も伺われる。「あっぱがたれこちになる」など学校では使えない俗語方言を子供たちは喜ぶ。現実離れした呪物は、現代のドラえもんの「どこでもドアー」や、「タケコプター」などと共通する。子供たちの憧れは時代を超えて、共通する。


 
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<本の事項>
越後山襞の語りと方言
著者名 高橋 実/著
出版社 雑草出版
出版地 長岡
出版年 2007年
定 価 2200円+税
ISBN 4-903854-00-7

越後山襞の語りと方言

・ご購入を希望の方は高橋実(0258-95-2340)までお問い合わせください。

 

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