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ふるやのもり | 長岡市の民話

ふるやのもり(越後の昔話)katari

ふるやのもり

『越後山襞の語りと方言』より | 長岡市の民話

 
ふるやのもり

 あるどこに、爺さと婆さがあったてや。年取りの晩、外は吹雪で、風婆さ(1)がゴウと吹いて、ばかげにさぶい晩だてや。しんしょう(2)のいい家では、猿のきばのような白いまんまに、紅のようなとと食て、油のような酒のんで、年取りしているがんだども、爺さと婆さは貧乏だんだんが、ドンドンピ(3)をたいて、あたっていたてや。ほうして、「こんげにさぶいどきは、背中あぶり(4)でもしようや」てがんで、爺さと婆さは、はだかになって、ぬいだきもんを前の方にかけて、せなかをよろばたの火にむけて、あたっていたてや。「婆さ、婆さ、銭がないてや、切ないこんだな」「爺さ、おら、それよりおっかないもんがあらし」「婆さ、お前は、この世の中に、なんがいっちおっかねや」「おら、おおかめ(5)が、いっちおっかね」ほうしたれば、そんどき、爺さの馬っ子を食おうとて、山のおおかめがきていて、戸の外で、笹の葉のような耳をパサンパサンたって、爺さと婆さの話をきいていたてや。ほうして、「そうか、この世に、おらが、いっちおっかねか」と、きばをガチャガチャいわして、喜んでいたてや。「爺さ、お前は、なんが、いっちおっかねんし」「おら、古やのもり(6)と食っちゃ寝の化物(7)が、この世に、いっちおっかね」
 ほうしたれば、これを聞いたおおかめが、「なに、おらより、おっかねもんがいると。古やのもりと食っちゃ寝の化物てや、いったい、どんげな化物だ。こりゃ、おおごとだ。こんげなどこに、まごまごしていて、古やの化物と食っちゃ寝の化物に、食われでもしょうなら、どうしょうば。はや、逃げんばならん」と、たまげて逃げだしたてや。
 ほうしたればそんどき、爺さの馬っ子を盗もうとして、小屋根へあがって馬ぬすっとが待っていた。逃げたおおかめを、馬っ子だとおもて、屋根から、おおかめの背中にとびおりて、馬のりになって、おおかめの両耳にしっかりつかまったてや。おおかめは、「そら、古やのもりと食っちゃ寝の化物が、おらの背中にのった。こりゃ、へえ、食われてしまう」と、おっかんなって、ばかんなってとびだしたてや。
 何とかして、はや、背中の古やのもりと食っちゃ寝の化物を、ふりおとそうとするども、馬ぬすっとは、ふりおとされてはおおごとだんだんが、これもばかんなって、しがみついていたてや。ほうして、おおかめは、せつながって、「古やのもりがくっついた、食っちゃ寝の化け物がくっついた」と、泣き泣き、山の方へ逃げていったてや。ほうして、山の池のどこまできて、おおかめが、ブルブルと、からだをいさぶったれば、馬ぬすっとは、池の中におちて死んでしもたてや。いきがポンとさけた。
【出典】『とんと一つあったてんがな』笠原政雄さんの語りから
【注】]1.風婆さ(雪おろしの風) 2.しんしょうのいい(お金持ちの) 3.ドンドンピ(おおみそかに焚く火) 4.背中あぶり(皮膚に直接火を当てて体を暖めること) 5.おおかめ(狼) 6.古やのもり(古い家の雨漏り) 7.食ちゃ寝の化け物(食って寝てばかりいる怠け者)
【解説】
 古屋の漏りという全国的に知られた話である。笠原さんの話は馬盗人が池に落ちて死んでしまうところで、終わっているが、穴に落ちた盗人をサルが尻尾を下げて探ろうとする。盗人がその尻尾につかまり、上と下で思い切りひきあったために、尻尾がきれ、それまで長かったサルの尻尾がなぜ短くなったという「なぜむかし」で終わっているものが多い。
 ここでは「おおかめ」となっている狼は、かつて日本にいて、今は絶滅した幻の日本狼のことである。民話では「おおいん」「山犬」として登場する。しばしば人を襲い、人々には、恐れられていた動物である。この恐ろしい動物よりも恐ろしい「古屋の漏り」とは、一体何であろう。茅葺屋根の雨漏りは、そこに住む人には最も深刻な危機である。この話を世にも恐ろしい怪物に変えてしまった。この中の馬盗人も「おおかめ」もそれが、見たこともないほど恐ろしい怪物として信じていた。だからこそ、馬盗人も「おおかめ」も、家から飛び出した動物が「古屋の漏り」という怪物だと信じ込んでしまった。それが、家の雨漏りだったとは、予想外のことであった。それに加えて「食っちゃ寝のばけもん」との結び合わせも意外というべきである。一方は貧困の象徴であり、もう一方は怠け者の象徴である。ふるやのもりという怪物を恐れたおおかめは、家から飛び出す。それを馬盗人は、馬と間違えて、背中に飛び乗る。おおかめは、背中に飛び乗った馬盗人をふるやのもりと思い込む。お互いの誤解がこの話を巧まずしてユーモアに誘い込む意外性と、勘違いを意識しないで信じ込む。「ねずみ経」でも、偽坊様から習ったでたらめなお経が、家に入ろうとしていた泥棒を撃退する。結び付けられないものを結びつける意外性と一方的な信じ込み、ここが民話の面白さである。


 
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<本の事項>
越後山襞の語りと方言
著者名 高橋 実/著
出版社 雑草出版
出版地 長岡
出版年 2007年
定 価 2200円+税
ISBN 4-903854-00-7

越後山襞の語りと方言

・ご購入を希望の方は高橋実(0258-95-2340)までお問い合わせください。

 

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