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宝手拭 | 長岡市の民話

宝手拭(越後の昔話)katari

宝手拭

『越後山襞の語りと方言』より | 長岡市の民話

 
宝手拭

 あったてんがな。あるどこね、婆さと嫁があった。まんまがさがった(1)んだんが、やきめしにして焼いているどこへ、旅のぼんさまが、フラリときて、「腹がすいたすけ、そのやきめしを、一つくれ」と言うたれば、婆さが、「いや、やらんね」と、ことわったと。ほうしたら、ぼんさまはスゴスゴといぎかけた。それを見た嫁が、気の毒におもて、やきめし二つ、婆さにかくして、コッソリくれてやった。ほうしたら、婆さが、「やきめしは、こればかしの筈がない、もっとあったねかい。」「おらが二つ、食った」と言うども婆さがどこまでもただしてきかねんだんが「あの、旅のぼんさまにくれてやった」と言うたれば、「たんだ今、ぼんさまをおっかけて、とってこい」と婆さが、こうやいた(2)と。そっりゃんだんが、しかたがね。嫁は、ぼんさまにおいついて「婆さまがごうやいて、どうしようもねすけ、あのやきめし、返してくれ。まことにもうしわけがない」「そうか。あのやきめしは、おら、食てしもたや、はらがへっていて、ばかうまかった。わるかったのし。やきめしの代わりにこの汗ふきを一つ、お前にやる」と、てんご(3)を一つくれたと。嫁が、うちへもどってきて、「おお、あつ、あつ」と、もろた汗ふきで、顔をふいたれば、ばかげに、きりょうのいい女になったんだんが、婆さもたまげてしもた。ほうして、夜さる、婆さが、「あね、あね、お前またなにして、そんげにいい女になったや」と聞くと。嫁は「あの旅のぼんさまからもろたてんごで、あせふいていたら、こんげになった」というたと。婆さは、「そらいかったのし。その汗ふき、おらに貸してくれ」と言うて、貸してもろて婆さは寝た。朝げになって、婆さが、いっこ(4)起きてこねんだんが、嫁が、「婆さ、まんまにしようれ」と起こしにいったれば、「二ーン、ホホホン」と、婆さが言うたと。嫁はたまげて、「婆さ、馬のまねして、どういうがんだ」と、よく見たら、婆さの顔は、馬の長い顔になっていたと。いちがポーンとさけた、なべのしたガラガラ。
【出典】『いきがポーンとさけた』未来社 昭和三十三年刊 六日市町 高津ヒロさんの語り
【注】1.さがった(わるくなった・腐敗した) 2.ごうやく(おこる) 3.てんご(手拭い。ここでは、汗拭きと二通りに書かれている。) 4.いっこ(なかなか)
【解説】
 不思議な手拭いを手に入れて福運を得るという呪宝譚の一つ。心の優しい人にはすばらしい宝物を手に与えてくれるが、欲張りな人には、かえって不運をもたらす。人間の限りない欲望に対する抑制や訓戒がこめられている。
 この呪宝には、他に、打ち出の小槌、下駄、瓢、ウグイスの一文銭、鼻たれ小僧などがある。
 民話は、子どもを聞き手として作られているとは限らない。紹介した話は、嫁と姑の対立が元になっている。姑は欲張りで、嫁が旅の坊様にやった握飯を取り返して来るように命じる。この話など、嫁・姑という大人の世界の争いをテーマとしている。この欄でも紹介した高橋ハナさんの昔話でも「ぼたとかえる」がある。この話も欲張りな姑が牡丹餅を独り占めして、留守に嫁に食われないように、「嫁が見たら蛙になれ」といいつつ、外出する。嫁は姑の留守に牡丹餅をこっそり食べて、代わりに入れ物に蛙を詰めておく。姑が帰宅して牡丹餅の蓋を開けると蛙が飛び出し、「嫁ではない、婆さだ」と呼びかかけるが聞かず、蛙はみんな池に飛び込んでしまうという話となっている。こうした話で、姑が嫁に勝つと言う話はない。この話を聞いて、日ごろ姑にいじめられている嫁はさぞかし溜飲が下がったことであろう。
 ここで、やってくる旅の坊様は、みすぼらしい身なりをしているが、神の化身である。神様が乞食や座頭、六部など貧しい身なりの訪問者に姿を変えて、村々を回る話は、よく知られている。その時期は、大晦日の夜とされている。新しい年を迎える大晦日の夜(大歳の夜)は古来神聖なものとされ、さまざまな行事が執り行われる。
 正月に子どもに与える小遣いを「おとしだま」というが、この神の化身が新しい歳に子どもたちに配るものが「年玉」で、昔は必ずしもお金とは限らなかった。人々は、年玉をもらうことで、年を取るので、年を取るのがいやで隠れていても、歳神が歳玉を投げつけるので、免れないという。
 大晦日に一夜の宿を頼まれた爺婆は、座頭を泊めて歳魚を食わせる。のどが渇いた座頭が水を飲みに行き、井戸に落ちる。爺と婆が座頭を井戸から上げるとき「身上がや」「上がるがや」と井戸の座頭と声をかけあいながら引き上げる。翌日座頭の姿はなく、寝床には小判の山が出来ているという「大年の客」の話や先に本欄で取り上げた「笠地蔵」の話も共通している。
 ここで、紹介した話もそうした一連の呪宝話として位置付けられる。


 
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<本の事項>
越後山襞の語りと方言
著者名 高橋 実/著
出版社 雑草出版
出版地 長岡
出版年 2007年
定 価 2200円+税
ISBN 4-903854-00-7

越後山襞の語りと方言

・ご購入を希望の方は高橋実(0258-95-2340)までお問い合わせください。

 

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