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見るなの蔵 | 長岡市の民話

見るなの蔵(越後の昔話)katari

見るなの蔵

『越後山襞の語りと方言』より | 長岡市の民話

 
見るなの蔵

 とんと昔があったげど。種苧原村のようなどこに、あるどぎ、村相撲が二日も三日も続いた。 ほうしると、どこの娘だかわからんどもに、いとしげの娘が、まいんち、相撲を見に来ていたと。村の一人の相撲取りが、「はてな、こりゃ見たこともない娘だが、それにしても、何てまあ、いとしげな娘だろう」と、その娘ばっか見ていた。やがて相撲も終ったんだんが、ウンなが、その娘も帰った。相撲取りは、この娘はどこの村のもんだかと、こっそり帰っていぐ娘のあとをしとうて行った。娘はすたすたと歩いて行って、だんだんいり山の方へ歩いて行った。ほうしると、山の中にでっこい見事な家があって、娘はその家の中へ入ってしもた。相撲取りも、その家へ行って、「道をはぐれてとうとう山の中へ迷いこんだが、どうかこんにゃ一晩とめてくれ」と頼んだれば、娘が「そうか、おらどこは、おら一人だども、なじょもとまってくれ」と言うた。相撲取りは一晩とまり二晩とまりしている中に、帰ることも忘れ、「ここんちお前一人だんが、おらを婿にしてくれ」「お前がその気だば、なじようも」てがんで、二人は夫婦になり、楽しく暮らしていた。
 ある日、かかが、「おら、今日は、よそへ用事に行ってくるすけ、お前、留守をしてくんねかい。家の後に倉が十二とまい(1)あるが、おらの留守にその倉を見たいけば、十一とまいまでは見てもいいどもに、おしまいの十二とまい目だけは、決して見てくれんない」と固く言うて家を出て行った。その留守に、家の後へ行って見たれば、なるほど十二とまいの倉が並んでいた。その一とまい目の倉の戸をあけたれば、中は正月の景色で、人が餅やさまざまの正月ごっつぉを食ている、たのしい、にぎやかなどこだった。二とまい目は二月の初午、三とまい目は、三月の女節供、四とまい目は、四月八日の薬師の祭、五とまい目は、五月の田植え、六とまい目は、六月のたなばらい(2)、七とまい目は、七月の盆で盆踊り、八とまい目は、八月の十五夜、九とまい目は、九月のくんちの菊の節句、十とまい目は、十月の神迎え、十一とまい目は、十一月のお太子講。めいめい、その時その時のごっつぉがあり、その日の行事をしている、たのしいメイゲツ(3)の倉であった。これで十一とまいの倉をンな見て、残るは十二とまい目の倉だ。
 決して見るなと固く言われたどもに、見るなといわれるとのうか見たいし、こんだはどんげなたのしいどこだかと見たくてどうしょうもない。どうせ留守だんが、こっそり見てもわかるまいと思うて、十二とまい目の倉をあけて見たれば、そこには鏡が、たった一枚あるきりだった。ふしぎに思うて、その鏡を見ていたら、山道を急いで帰ってくるかかの姿が映っていた。こりゃおおごとだと、急いで戸をしめてひんはた(4)のどこへきて、知らん顔をしていた。
 かかは家の中へ入って、悲しい顔つきで言うた。「あんげに決して見てくれんないと言うたてがんに、お前、十二とまい目の倉の中見たのし」「いや、おら、何で見ようば」「いや、見た見た、おらにはわかる」と言うたかと思うと、たちまち、かかは一羽のきれいな鶯になって、「ホウホケチョ」と悲しげに鳴きながら、水屋の窓からどっかへたっていってしもた。やがて相撲取りが気がついたれば、あんげな見事な家もいつか消えていて、山の中の藤もだ(5)の中にあごし(6)かいていたがんだと。これでいっちこさっかえ、さっかえ、ピチョン。
【出典】『とんとむかしがあったげど 第二集』水沢謙一著 未来社刊 昭和三十三年 畔上マサさん語りより
【注】1.とまい(戸前・土蔵を数える数詞) 2.たなばらい(蚕あげの祝い)、3.メイゲツ(年中行事の改まった日・ハレの日)、4.ひんはた(囲炉裏)、5.藤もだ(葛藤のやぶ)、6.あごし(あぐら)
【解説】
 「見るな座敷」とも「鶯浄土」とも呼ばれる話である。
 最後見るなといわれた倉には、梅の木があって、鶯が一羽飛んでいたという話。「見るな」というタブー(禁忌)破りがこの話の核心である。鶴の恩返し・蛇婿入り・魚女房・浦島太郎もこのタブー破りが出てくる。
 ここで、娘は鶯の化身だったという。この倉は、四季の風景やメイゲツ(ハレの日)の行事が出てきて、まるで次々と場面が変わり、スライドショーを見ているような感じである。語り手が思いをはせる理想郷である。
 その中における禁忌は非日常的世界である。蛇婿は、出産の場面を見るなと言ったし、鶴の恩返しは、自らの羽を抜いて機を織る場面を見るなといった。この話の十二番目の倉にあった鏡は非日常的な変身前の闇の世界・原風景だった。こうした主人公の恥部ともいえる世界を見たことによる破局である。民話版ジキル博士とハイド氏である。
 民話は、表よりも裏の世界の存在を強調し、二つの世界が、複雑に交錯して展開してゆく。


 
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<本の事項>
越後山襞の語りと方言
著者名 高橋 実/著
出版社 雑草出版
出版地 長岡
出版年 2007年
定 価 2200円+税
ISBN 4-903854-00-7

越後山襞の語りと方言

・ご購入を希望の方は高橋実(0258-95-2340)までお問い合わせください。

 

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