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兄とおじの鉄砲撃ち | 長岡市の民話

兄とおじの鉄砲撃ち(越後の昔話)katari

兄とおじの鉄砲撃ち

『越後山襞の語りと方言』より | 長岡市の民話

 
兄とおじの鉄砲撃ち

 とんと昔があったげど。あるどこね、あにとおじの鉄砲撃ちがおった。あには、西の奥山へ、おじは東の奥山へ、鉄砲撃ちに行ったと。おじが、夜さる、東の奥山でとまって、火をボンボンとたいていたれば、十七・八になる娘がローソク片手に、まっかなおぼけをたがいて(1)きて、ほうして、ヒラヒラと苧を績んでいたと。おじは、「このやつめ、何かが化けて来やがったな」と思うて、ドーンと鉄砲を一発ぶっ放した。弾がその娘にあたったどもに、カチンと音がして娘はニコニコして、平気で、おじを見ていたと。「このやつめ」、てがんで、また一発撃ったども、やっぱし、カチンと音がして、娘はニコニコしていたと。ほうして、おじは、また一発、また一発と撃ったら、弾が、とうとう絶えてしもたと。こんだは鉄砲でなぐりつけたら、その娘が、おじにとびついて、おじを食いはねて、しまいには、足を片っぺだけ残して、どっかへ行ってしもた。
 その晩、東の奥山にいたあには、西の奥山に夜が夜っぴ(2)、ドーンドーンとつづけざまに鉄砲を撃つ音を聞いて、「あの音は、おじの鉄砲の音だが、何か変ったことがないけばいいが」と、あじことに(3)思うていた。
 次の朝、西の奥山に、おじを探しまわったれば、おじの片っぺの足が見つかったと。「そうか、やっぱし、よんべなは何か出やがって、大事なおじを食てしもたが、にっくいやつだ。こんにゃは、おじのかたきを、取ってくっず」と思うて、夜さる、ボンボン火をたいて待っていたと。ほうしると、また、よんべなの娘が、ローソクを片手に、おぼけを片手にたがいて来て、ヒラヒラと苧を績みはねたと。「ンの、この化物でけつかった。おらのおじを食いやがって、にっくいやつめ」と思うて、ドーンと一発、娘めがけてぶっ放したと。娘はニコニコして平気でいた。また一発、また一発と撃っている中に、弾は、あと一発だけになってしもた。「さて、もう、弾は一発しかないが、これでは、あの娘を撃ち殺すことはかなわん。そうだ、化け物は、かげら(4)に撃て、ということがあるど」と思うて、娘のかげらになっていた真っ赤なおぼけをねらって、最後の一発を撃った。ほうしたら、その娘は、キャッキャッと叫んで、せつながって、どっかへ姿がけえてしもた。そこらを見たれば、タランタランと血をたらしたあとがあるんだんが、そのあとを伝うて行った。ほうしたら、川の下の谷の穴のどこまでくると、穴の中で、ウーンウーンとうなり声が聞こえてきた。あには、穴の中へ入って、うなっているやつを、鉄砲でなぐりつけて、よく見たれば、こったいな(5)むじなであったと。これでいっちこさけブイブイ、鍋の下ガラガラ。
【出典】『とんと昔があったげど 第二集』 水沢謙一編 昭和三十三年 竹沢 高野クラさん語りより
【注】1.おぼけ(苧績み桶、紡いだ麻糸をいれる桶) 2.夜が夜っぴ(一晩中) 3.あじこと(心配事)4.かげら(影) 5.こったいな(大きな)
【解説】
 長岡弁では、「おじ」は頭高アクセントで、弟を意味し、ここでは出てこないが、「おば」は妹を意味する。
 先に山古志の「葬式の使い」でムジナが人をだまし、退治されるという民話を紹介したが、これも弟が化けムジナに殺され、兄がそのムジナを退治する話。化け物退治に分類される。「山姥の糸車」とも呼ばれる。ここで山奥で麻糸を紡いでいるのは、山姥に化けたムジナであった。山姥の傍の道具は、他県では糸車・行灯(あんどん)であるが、ここでは苧績み桶となっているのが、縮の特産地の越後らしい。苧績み桶は、縮の産地魚沼の各地に伝わる機織用具のひとつで、漆塗りの曲げ物でできている。「赤い」おぼけというのは、漆が塗られたからであろう。冬の間家の中で嫁と姑が競争でこの桶を傍らに苧を績んでいた。この麻の白皮からとった繊維が越後縮の材料になるのである。
 兄と弟が登場する昔話は、兄弟葛藤が多いが、これは、弟が化け物に化けたムジナに殺され、兄がその敵を討ってムジナを殺す話になっている。
 小国の話では、殺されたのは、兄の方で、弟が兄の敵を取る話になっている。また山姥に化けていたのは、ムジナではなく、猿だった。
 山姥は、山中に住む妖怪で、山の神の零落した姿といわれている。新潟県では、子供を攫っては食う弥三郎婆さんと呼ばれる山姥伝説が各地に伝わっている。しかし、「姥皮」のように山姥が人に福をもたらす話もある。
 この話で注目されるのは、魔物退治では、正面から敵に向かうのでなく、その影の部分に焦点を絞って撃つというくだりである。弱点は正面ではなく、付属部分にあるというのである。つまり、魔物に正面から鉄砲を向けるのでなく、その持ち物のおぼけを的として撃つ。化け物には、体外の命を持つということを知った。体の外に命をもっているので、体を狙って撃っても倒せないというのである。ことわざに「将を射んと欲すればまず馬を射よ」というのもこういうところから出た諺なのであろうか。そのことわざを地でゆく話となっている。


 
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<本の事項>
越後山襞の語りと方言
著者名 高橋 実/著
出版社 雑草出版
出版地 長岡
出版年 2007年
定 価 2200円+税
ISBN 4-903854-00-7

越後山襞の語りと方言

・ご購入を希望の方は高橋実(0258-95-2340)までお問い合わせください。

 

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