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語りの現代的意義【語りの現代的意義活動】

語りの現代的意義【語りの現代的意義活動】mukasi

語りの現代的意義(『越後山襞の語りと方言』より)

高橋 実 

 
語りの現代的意義

 各地で昔話の語りが盛んにおこなわれるようになった。昔話はかつて、親から子へ、子から孫への教育手段であった。そうした語りの伝承機能は、学校、通信メディアから、文字や映像を介して溢れるようにはいってきて、失われてしまっている。また水沢謙一氏のように、個々の民話を収集して、民話の世界性、信仰機能などの研究は、もはや難しくなってきた。それでは、この時期に、昔話の語りにどんな意味があるのであろう。私は、次の五点を挙げてみたい。
@ 家族のコミュニケーションを育てる
 世上には、肉親同士の悲惨な事件が日常茶飯事のように報道されている。なぜ、これほど血を分けたもの同士が憎しみ合わなければならないのか。親子の情愛など日本の文学、瞽女唄などに主要なテーマだった。それは、戦争、貧困など様々な社会的事情で引き裂かれた情愛だった。そうした社会的事情がなくなったのに、かえって親子・夫婦の情愛が希薄になって子供への虐待や子の親への殺傷など様々な事件が起こる。それを救うのは、昔話を介した家族のコミュニケーションつくりだと思う。幼児の頃から、こうした機会がシャワーのように降り注いで、親と子のコミュニケーションを作っておくことが今必要なのではないか。
A 生きる力を育てる
 昔話から発せられる現代へのメッセージは何だろう。花咲爺さんは塩引き臼のように正直で働き者には、幸福を与え、怠け者、欲張り爺さんには不幸を与えるという教訓はわかるが、昔話はそんなものばかりではない。三年寝太郎のように怠け者が幸福を掴む、俵薬師なども、怠け者で、人を何人も殺していながら、幸福を掴む。これらは、一体どう解釈したらよいのであろう。私は、そこに生きる力を見る。俵薬師での主人公は日頃怠けているが、生き延びてゆく為に必死に知恵を絞る。簀巻きにされて命を落とすところを知恵で切り抜ける。聞き手は、その生きる知恵に驚いて、主人やおばあさんを川へ突き落とす場面など聞くほうはあっけらかんとして気にしない。主人公の知恵に驚かされて話は終わる。
 テーマが人を殺すことより、知恵の力でどんどん切り抜けることにある。
B 聞く力を育てる
 この人間社会は、ことばのやり取りで成り立っている。相手の言葉に反応し、同調、反発を繰り返して、会話が成立する。いわば、言葉のキャッチボールである。しかし、今、電波を通して発せられる言葉は、相手の立場を無視する。携帯電話は、相手が、会議の最中でも、病気で苦しんでいる時でも、お構いなしにかかってくる。次第に人は、相手の立場を無視して、聞こうが聞くまいが一方的に話し続ける。
 それに対して、昔話は「サース」「サンスケ」などと「あいづち」を要求する。これがないと語りを省略するか、打ち切る。語りは話し手と聞き手がお互いに反応しつつ、話が展開し、もしくは縮小する。こうした意味で、聞き手も重要な役割を担っている。人の話がじっくり聞けない子供達が増えている。それがそのまま大人世界に入っていったら、人の話に耳を傾けることが出来ない、欠陥人間になってしまうのではないか。聞く力を育てるのが昔話の語りであるといえる。
C 想像力を育てる
 今年三歳になった孫の成長過程をながめる。言葉が自由に話せても、はじめは、電話で話せなかった。電話の向こうから聞こえてくる声が父親・母親だと想像できなかったためではないだろうか。電話で話すということは、声の向こうに相手の顔が想像できていなければならない。
 昔話の世界は、現実の世界から離れた「おむすびころりん」の地下の世界、「天人女房」の雲の上の世界、「浦島太郎」の水底の世界が展開する。それらの架空世界を自由に遊ぶことが出来る想像力を育てる。それが相手への思いやり、やさしさ、気配りにつながってゆくのではないだろうか。欲望のプールである狭い自分の世界をひろげ、寛容な心を育てることではないか。
D 方言の温かみ
 昔話は地元の方言で語られる。かつて方言は、悪い言葉として追放されるべき言葉だった。しかし、今、方言も立派な文化として位置づけられる。老人ホームなどで語ると、昔の言葉が懐かしいといわれる。方言が失われて、全国どこでも共通語で語られると、コンビニで買うハンバーグや菓子パンの味のようになってしまう。地元で取れた新鮮な野菜の味が方言である。その一つが擬態語、擬声語といわれるオノマトペである。小国の鈴木百合子さんの語る「笠地蔵」で、雪の降る状態をオノマトペで表現する場面がある。里では雪がチランチランと降っていたが、峠にかかるにつれて、ポサンポサンとなり、山の上ではボサンボサンと降っている。見附の優れた昔話の話者だった故富川蝶子さんも素晴らしい反物を「目のつんだ」反物と表現した。こうした表現は、共通語では語れない。これが方言のもつ、温かみと豊かさである。
 以上、昔話語りの現代的意義を書いてみたが、この五つは昔話でなくても、ストリーテリングや絵本の読み聞かせでも取って代わることが出来る。でも、以上五点を総合的に育てるには、昔話の語りしかないと自負している。自信をもって昔話を語ってゆきたいものである。

 
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<本の事項>
越後山襞の語りと方言
著者名 高橋 実/著
出版社 雑草出版
出版地 長岡
出版年 2007年
定 価 2200円+税
ISBN 4-903854-00-7

越後山襞の語りと方言
 

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