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サル婿入り民話【越後の昔話逍遥】

サル婿入り民話【昔話の世界をのぞく】mukasi

サル婿入り民話(『越後山襞の語りと方言』より)

高橋 実 

 
サル婿入り民話

 越後の民話のもっともポピュラーなものといえば、真っ先にサル婿入りを上げなければならない。
 ある時、爺さんが畑の草取りにいって、あまりつらいので「この畑の草をとってくれたものがあれば、娘の一人を嫁にやってもよい」と独り言をいう。それを山のサルが聞きつけてさっさと草取りを終やす。サルは約束通り、娘を嫁に貰いにゆくという。爺さんは、そのことが心配になって家で寝込んでしまう。そこへ三人の娘がご機嫌伺いに来る。姉二人はサルの嫁になるのを拒否する。末娘は爺さんの頼みを聞いて、サルの嫁になる。婿を連れて嫁の実家に挨拶に行く里帰りの日に、娘は土産に餅をついて行きたいが、弁当や重箱に入れるのでは匂いがついて駄目という。サルが臼を背負って後ろから嫁がつきながら行く。途中で桜の花がきれいに咲いていて、それを取って欲しいとサルに頼む。サルは、臼を下ろして木に登ろうとすると、地面に下ろすと土の匂いが付くからといって、嫁は下ろさせず、やむなくサルは臼を背負って、木に登る。高く上って行くうちに臼の重みで枝が折れて、サルは川に落ちて流される。その時「サルはサル川へ流れても、娘の命が可愛可愛」と歌いつつ流れてゆく。そして娘はそのまま家に帰ってくるという筋である。
 サルの嫁となるべき娘が、知恵を働かせてこれを逃れたという異類婚姻譚の一種。『日本昔話事典』によれば、この話は全国各地に伝承されていて、結婚後の里帰りにサルを入水させる型と嫁入りの途中に入水させる型に分れ、前者は、東北・関東・中部地方に分布し、東北型と呼ばれ、嫁入りの途中で、水瓶を背負って川に入らせ、サルが深みにはまって死んでしまう西日本型の嫁入り型は、近畿・中国・四国・九州に伝承するという。
 サルが娘を嫁にという要求は決して理不尽なものでなく、畑の草取りという労力に対して当然の代価だった。しかも、サルは嫁のいうどんな無理難題も聞き入れながら、最後には、嫁の計略にはまって、命を落とさなければならない。それなのに、決して嫁を恨まず、自分の命はどうなっても、後に残る嫁の将来を心配しつつ死んで行く。なんと哀れな民話であろう。動物のサルが人間に求婚する理不尽を戒めたとも言われている。でも、娘は一度は、サルとの婚姻を承知して、サルと人間の婚姻をまったく否定していないはずである。いったい、何時の時点で婿となったサルを殺害しようと意識したのか。爺さんの願いを聞き入れた時点で、既にその計略が芽生えていたのか、もしそうなら、最初から爺さんの申し入れを拒否すべきだったはずである。それとも結婚から里帰りまでの間に心境の変化を来す事件があったのか、この民話は、それについては、なにも言っていない。なぜ、これほどまでにポピュラーな民話になったのか謎めいている。

 
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<本の事項>
越後山襞の語りと方言
著者名 高橋 実/著
出版社 雑草出版
出版地 長岡
出版年 2007年
定 価 2200円+税
ISBN 4-903854-00-7

越後山襞の語りと方言
 

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