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特集:八石山 ブナの芽ばえ | へんなか

ブナの芽ばえhennaka

へんなか 芸術村通信 「ブナの芽ばえ」

ブナの芽ばえ
和光の自然に親しむ会       
増田 裕   

 私達の住む和光市は、埼玉県の南部と言うより地下鉄有楽町線の始発駅と言った方が理解していただける事と思います。
 このことからもわかりますように、市内の自然は開発によりほとんどが失われてしまいました。しかし、最近の私達の調査では、八七種類の野鳥が確認され、また、カタクリ、ヒロハアマナ、ヤマブキソウの群落を初め、多くの野草が固体数は少なくなったとはいえ、まだ自生している事がわかりました。
 このような状況の中、もう一度、市内の自然を見直そうということで、昨年の春、「和光の自然に親しむ会」が結成されました。その中で、意外に自分達が市内の自然を知らないという事がわかり、会の最初の仕事として、市内の自然ハンドブックを作ろうと言う話が持ち上がりました。
 その中で、会員の一人である中島さんより小国町の方々が「小国の植物」を作成されたことを知り、その年の秋に小国町を訪れ、本を作成する上での体験談等を太郎丸の高橋実さんから聞くことができ、大変参考になりました。
 本を作る際の苦労話もさることながら、私を小国町に惹き付けたのは、高橋さんがふじのやの座敷で酒を酌み交わし、夜のふけるのも忘れて、熱心に話された、太郎丸の新浮海神社の春の祭礼で、子供達が演じた芝居の様子でした。
 その時受けた感激は、文章ではとうてい表現できるものではありませんでした。あえて言うならば、小国町には、私達のまわりの子供達には、すでに失われている子供本来の姿が残されていると言うことでした。
 ぜひ、その芝居をわが家の子供達と見に行きたいと思い、高橋さんからお聞きした芝居のことを話しましたが、悲しいことにすでに彼らにはその話を聞く余裕すらも残っていませんでした。
 自分一人でもと思い、今春再び小国町を訪れ、じかに子供達の芝居を見ることが出来、感激を新たにすることが出来ました。
村芝居ゆきんこ  そこには、子供達だけでなく、そのような子供たちを育てた大人たちがあり、彼らを生みだした豊かな自然があることを実感することができました。
 そして、その自然に惹かれて、四月の祭りからひと月程の五月に、会員と、市内の山野草のグループと共に、再び小国町を訪れました。半年の間に三度も同じ所を訪れたのはかつてないことでした。
 その際訪れたのが八石山でした。自然が豊富というか、小国町=自然の中で、ひときわ目に止まったのがブナ林の緑でした。
 急な山肌にしっかり根をおろし、そびえるように立っているブナ、これこそ自然の原点のような感じさえしました。そして、ブナ林に一歩足を踏み入れ、そこにオオイワカガミを初め、多くの植物を見る事ができました。中でも、目に止まったのが足の踏み場もないほどの力タクリの群落でした。花の時期はすでに終わっていましたが、その多さにあらためて感激しました。
 カタクリは和光市にもあります。しかし、和光市では、カタクリの自生地を公表しようものなら、たちまち採られ絶滅してしまう運命にあります。ここではおそらく採る人はいない事でしょう。
 昔は和光市でも、小国町と同様、春になると雑木林にカタクリが一面に咲き、そこを通る人はその光景をあたりまえととらえ、採る人はいなかったことでしょう。しかし、生活様式が変化し、開発が進み、カタクリが生息できる環境が少なくなった和光市では、カタクリは極めて貴重な植物になってしまったのです。
 このような一面にカタクリが咲くブナ林の中で、和光市の子供達を、思う存分遊ばせ、自然のすばらしさ、自然の大切さを実感させる事ができたら、どんなにすばらしい事だろうという思いが、ふと心をよぎりました。
 同時に、彼らを八石山のような自然豊かな所へ連れてきて、本当に自然を理解してくれるだろうかという不安にもかられました。
 太郎丸の春祭りの子供達の芝居の話も、自分達と無縁、いやそれを受け入れる余裕がなくなってしまった子供達に、自然を理解することは不可能かも知れません。
 私達の子供の頃は、がき大将に連れられ、林を駆け回り、小川でメダカや、フナを取った経験があるからこそ自然のすばらしさを知り、その自然から多くを学んだ事と思います。
 しかし、自然が極めて少なくなり、自然の中で遊んだ経験が全くない市内の子供達は、自然の中での遊び方、つき合い方さえわからない事と思います。
 小さな頃、ドングリを拾い、そこにやって来る野鳥の声を聞きながら育ったならば、豊かな自然の中に入った場合でも、素直に自然を受け入れ、そこから多くの事を学ぶ事ができることと思います。
 ぜひ、子供達が八石山のような豊かな自然を理解できる、そのきっかけとなる様な自然を是非市内に作って行きたいと思います。
 八石山のブナの木の根元に見つけた、ブナの芽ばえのように、「和光の自然に親しむ会」が市内の子供達のための自然を作り出す「芽ばえ」になったらどんなにすばらしい事でしょう。

(ますだゆたか・埼玉県和光市在住       
和光市自然観察指導員・昭20年生れ)

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