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「少年の革命」 | 第二小説集『紙の匂い』

少年の革命works

少年の革命 3

          (三)

 おれは、女ともだちがほしかった。別におれが、人よりませていたというわけでもなく、人より女の子が好きだというわけでもなかった。ただ、おれの気持ちを理解してほしかった。サチやトメのように、おれを利用するのではなく、おれの心の奥底を理解してくれるのは、女の子でなくてはだめだと思った。
 そのおれに、彼女ができた。同じ中学の一級下で、名はミチ子といった。その彼女の前で、おれは色メガネをかけ、タバコをふかした。いっちょうまえの十五歳であった。ミチ子はほっそりした体とキラキラした瞳をもち髪を肩まで垂らしていた。笑うと小さな笑くぼができる、かわいい女の子だった。
「女の子って、アンネちゃんの前になるとイライラして、ヒステリーになるってほんとう」
なんて、おれがふざけ半分にきくと
「やーだ」
なんていって、おれの頭をポカッとなぐってにげてゆく女の子だった。ミチ子といっしょにいると楽しかった。
 ある日、ミチ子に、ハッピーエンドの歌うロックのLPをプレゼントした。
「これ、わたしの大好きな曲よ。大事にしてきくわ」
といって、だきしめるようにして帰った。
 ところが、その夕方、ミチ子からおれのところへ電話がかかってきた。
「かあさんがね、人からレコードなんかもらうといけないって、おこっているのよ、イワオさんがタバコすったこと知っていたわ」
というのだった。
「どうしてなのさ」
「よくわからないけど、人からいわれたらしいの」
 ここまでミチ子の話をきいて、おれはわかった。おそらく、ミチ子の母さんは、そのレコードをどこかから盗んだものと考えているのだろう。おれはショックだった。
「電話じゃ、よくわからないから、一度会ってくれない」
 おれはそういった。ミチ子は、ふつうだったら「ええ、いいわよ」と答えるはずなのに、この時、ちょっと返事に時間がかかった。母親と相談しているようだった。
 やっと、承諾をもらって、近くの神社でミチ子に会うことにした。彼女は、デニムのスカートとブラウスでやってきた。学校で見るより、ずっとおとなびて見えた。
「わたしのところへ、先生がきてね。あんたのことかあさんに話したらしいのよ。そして岩夫さんのような人とつきあうのはやめなさいというのよ。わたしは、岩夫さんはそんな人じゃないわといったのよ。でも信じてくれなかったわ」
「ふーん。で、先生が、おれのことどんなふうに話していったって」
「タバコすったり、酒のんだり、バイクをのりまわしたり、不良仲間の中心人物だから注意したほうがいいって、いったらしいのよ」
 先生が、おれのことを村の人にいいふらしているなんて。おれは、先生への怒りが、火のように燃えた。なんというきたないやり方をするのだろう。あの時、先公をなぐってやればよかったんだ。
学校内なら、しかたがないとしても、こんなところへきてまで、なんのためにおれのあることないことのうわさを広めようとするのか。
「それで、あんた自身は、おれのことどう思ってんの」
「わたしはそんな悪い人と思っていないわ。でも母からあんなこと聞かされてびっくりしちゃった。
母さんは、もう岩夫さんとつきあうなというのよ。きょうも、ここにくるのに反対したけれど、お別れにいってくるからってやっと出てきたのよ」
「うん、わかったよ、あんたはおれのことを先生からきかされて嫌いになったってわけさ」
「そうじゃないのよ。岩夫さんこれだけは信じて。私は岩夫さんが好きよ、でも母さんがゆるしてくれないのよ」
「うん、わかったよ、おれがあんたとつきあったほんとの気持ち教えてやろうか。セックスがしたいだけなんだ」
 おれはいってやった。
「まあー、岩夫さんたら」
 ミチ子は、びっくりしたように、両手で顔をおおった。しばらく、うずくまったあと
「さようなら」
と小さい声でいって、彼女はおれの前から去っていった。
 その夜、おれは自分の部屋にとじこもって、ふとんの上にあおむけになったまま、死んだように動かなかった。先生が憎かった。ミチ子も憎かった。世の中がすべて憎かった。みんなが寄ってたかって、この弱いおれをのけものにしようとしているのだと思った。おれは弱い人間なんだ。人にたよらずには生きていけない人間なんだ。とってもさびしがりやで、ちょっぴりおセンチで、強がりをいっているだけなんだ。このおれを理解してくれる人がほしい。でも、今までそのたびに人に裏切られてきた。この世の中で信じられるのは、自分しかいないんだ。
 学校の勉強もせず、何のクラブにも入っていなかったおれは、自分で見る楽しみだけで一日がおわった。自分ひとりのからの中から出ようとしないで、毎日がすぎていった。マンガ本を見ながらキャアキャアといっている仲間たち、いっしょになって笑っている女ども、受験参考書をいっときも手離そうとしないガリ勉ども、おれは、どんなときでも、彼らの中にはいっていこうとせず、遠くから彼らをぼんやり眺めているしかなかった。
 三年生になったおれのまわりは、高校受験の話でいっぱいだった。模擬テストの点数がどんなだったとか、どこの高校へゆきたいとか。先生も、口ぐせのようにいった。
「そんなことで高校へゆけるのか」
「この問題は、去年の入試に出たところだ」
 それは、先生たちの一つの脅しでさえあった。今ころ、クラスの人たちは、必死で受験勉強をしているに違いない。来年のおれは、いったいどうなるのだろう。人並みに高校にはいりたいと思った。高校にはいらなかったら、先生や友だち、近所の人たちさえ「岩夫は高校さえも受験できなかった」とおれを白い目で見るに違いない。
「やっぱりなあ。あの男は中学のときさわぎすぎたからさ」とあいづちをうつ声もきこえてきそうだった。人並みに高校にはいりたいと思った。
 ギターを抱きかかえるようにしてボロンボロンとはじいた。ひとり声を出してみると、声は、まわりの障子にビンビンと響いた。

雨のむこうに街が煙って
赤や黄のパラソル涙に濡れて
十二色の色鉛筆でスケッチされた
お前の顔
もうやめようやこんな淋しい話
お前の暗い瞳の中に
青ざめた街は深く沈んで
ねえ、もうやめようよ
こんな悲しい話

 
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