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「少年の革命」 | 第二小説集『紙の匂い』

少年の革命works

少年の革命 8

         (八)

 それから、おれは、三里塚空港反対期成同盟少年行動隊にはいった。友だちの大学生の車にのせてもらって、生まれてはじめて成田へいった。そのころおれは、いろいろな行動を通じて、学生たちとも知りあった。
 この日は、滑走路予定地にたてた団結小屋を、機動隊がとりこわしにかかるというので大ぜいの農民や学生たちが集まって三里塚は異様に緊張していた。団結小屋は、プレハブ作りの八畳ほどの広さで、まわりには、杭をうち鉄条網をはりめぐらしてあった。中には、カンズメやラーメンなどの食料品や、トランシーバーなどが置いてあった。この小屋のまわりに、この日は、小学生から、年とったおばあさんまでいた。
「がんばっていこうぜ」
「あいよ、機動隊なぞコロシテヤル!」
 みんなの意気はさかんだった。
 ヘルメットとたてによって武装した、カーキ色の服を着た機動隊が、われわれの前にあらわれたのは、何時ごろだったであろうか。それは、団結小屋のまわりを囲んでいる農民や学生の数よりはるかに多く、われわれを遠まきにしながら、無気味に見守っていた。われわれは口をそろえて
「機動隊かえれ! かえれ! かえれ!」
とシュプレヒコールをくりかえした。機動隊の中には、そんなわれわれをうす笑いを浮かべて見ているものもいた。
 小学生のひとりが、その機動隊にむかってぶつかっていった。
「機動隊帰れ、ここはおいらの土地なんだ」
 それを機動隊のひとりが抱きかかえるようにして、もちあげだ。男の子がおこって、抱きあげた
隊員の顔をポカポカなぐった。おこった隊員が
「てめえー! ぶっ殺されたいのか。子供!」
とどなって、男の子をなげとばした。われわれの間に「おーおー」と抗議の声がおこった。と同時に、機動隊は、いっせいにわれわれの方へむかってきた。われわれは、スクラムをくんで、すわりこんだ。そこへ、機動隊員がひとりずつごぼうぬきにしていった。われわれは、足でけったり、つばをはきかけたりして抵抗した。
「キサマラ、それでも人間か」
「権力の手先」
 われわれは、すっかり興奮していた。権力の手先となって、素手で抵抗する人民を次々に捕えてゆく憎き機動隊、しかも、この土地は国のものではなく、農民たちの先祖代々の土地ではないか。このゆるすべからざる暴拳を放っておいてよいのか。スクラムをくんだ手をむりやりはなし、頭をポカポカなぐりつける。われわれも、旗ざおの竹棒で、たちむかっていった。何回も何回も、ワーという声を合図のように、機動隊は、窓ガラスをわって小屋の中に侵入する。鉄条網は、ペンチでズタズタにきられてあった。おれも、二三回頭をなぐられ、足でけられた。そして、とうとうつかまった。両脇をしっかり機動隊につかまえられて、車に乗せられた。大ぜいの人がつかまった。しかし、知っている人はいなかった。いったいこれからどうなるのだろうと思った。窓のない車は、どこを通っているのか外が見えなかった。つれていかれたところは、成田警察署であった。二階が取調べ室になっていた。
「てめえ、名前をいえ」
「……」
「どこに住んでいるんだ」
「……」
 おれは、口を堅くとじたまま、きっとにらんだまま、口を開こうとしなかった。
「大学生か」
ときいた。この時、おれは、はっきりと
「ちがいます」
と一言だけ答えた。家から送金してもらい、食う心配もなく、卒業すれば、どこかのエリート社員となる身である、彼らとおれとは違っていた。自分で働かなければ、食べていかれないのだ。一日一日が、生きることとの戦いであった。
「どこの派にはいっているんだ」
「……」
 時折、肩をこづかれたり、大声で脅迫されたりしながら、取調べは、長く続いた。顔写真と指紋とをとられた。失敗したことに、おれのポケットの中に電車の定期券がはいっていだのだ。おれの名前も、住所もわかってしまった。その日は、釈放された。ただ、警察署のリストに、おれの名前がそれから加わったことはたしかである。この日、同じアパートにいた友人もつかまって、アパートの中の証拠書類をすべて押収された。こんど、つかまれば、おれもまた同じうき目にあうことであろう。はじめて、こんな経験をしてみて、権力の恐ろしさもまた身にしみた。権力のやり方はきたない。しかし、自分の体で感じるそのおそろしさも強烈だった。この地にふみとどまって、激しい闘争に身をゆだねる自信がなかった。知っている人もあまりいなかった。自分の置かれている場所がわからなかった。三里塚の農民でもない、その支援学生ほど経済的なゆとりもない、おれはいったい、なんなのだろう。大阪にいこうと思った。ここは差別反対闘争が盛んで、急進派が多かった。この中で、おれは同志を見つけられるかも知れない。おれのような、中卒者で、解放闘争に出ている仲間もいるはずだ。

 
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