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「活字」 | 第三小説集『さつきの花』

活字works

活字 4

 そのころ『山脈』編集部は、Nさんがいなくなったあと、急速に編集、発行の意欲が失われていった。三号雑誌という汚名は、なんとかのりこえることができたし、ここに掲載された作品が、県同人雑誌連盟賞を受賞した。この『山脈』がわずか七号で廃刊になるなど次郎はもちろん、他の人たちもだれ一人予想するものがなかった。その『山脈』は、次郎が原稿を送って、一カ月も二カ月も発行されるようすはなかった。「吹雪の笛」は、いつまでも原稿用紙のまま永久に活字になる機会を失った。半年後、次郎は、この原稿をとりかえしに編集者のところへ出かけていった。
「Nさんがいなくなったら、みんな急速に同人雑誌熱がさめたみたいになってね。君のようにせっかく長い作品を書いてくれた人には、まことに申し訳なくてね」
 編集者は、そういって少し日やけして色あせた次郎の原稿を手渡してくれた。活字にならなかったこの作品は、今でも次郎の書架の奥に深く眠っている。

 
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