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「さつきの花」 | 第三小説集『さつきの花』

さつきの花works

さつきの花 4

 S氏の葬儀は、塩沢小学校わきのS氏の自宅で、ひっそりといとなまれた。前年十二月長岡中央病院に入院して、ずっと病院に入っていたという。享年八十二歳、死因はがんだったという。塩沢町長も参列していたが、弔辞もなく、かつて町長の職にあったS氏の葬儀としては、つつましいものであった。血縁関係もまったくない私が、町外から参列したのは、地元の人たちには奇異な感を与えたに違いない。まわってきた焼香台に、私は静かに合掌した。S氏の棺が車に乗せられる時、普段着姿の近所の人たちがあつまって、手をあわせていた。お斎は、すぐ近くの長恩寺が会場になっていた。長恩寺参道わきの大きなさつきの紫色の花がちょうど満開になっていた。それはまるで運動会で使う大玉のように咲いていた。
 中央公論社の「鈴木牧之全集」は、その二カ月後、七月に発刊となった。S氏は、この上下あわせて千五百頁という大部な先祖の著書を手にすることができなかった。この書物も、発刊の話が出て、すでに十一年が経過していた。私とS氏との対立が、この刊行時期のおくれに少なからぬ影響を与えていたことはたしかだった。

 
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