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「雪ごもり」 | 第一小説集『雪残る村』

雪ごもりworks

雪ごもり 5

 小正月の三日間、雪は激しく降りつづいた。学校では、例年、一月十四日から十六日までは休みをとる。しかし、雪の日は、ゆっくり休んではいられない。雪おろしのためだ。
 沢木たち、三人の男先生は、学校から五分くらいの距離にある住宅に住んでいた。住宅といっても、終戦後まもなく、よその古材を使ってたてたというこの住宅は、いたみがひどく、風の日は、大きくゆれた。かつて、屋根が吹きとんだこともあるという。沢木のいる二階の六畳間は、天井が低く頭がつかえるほどだった。おまけに西にむいたガラス戸はたてつけが悪く、三角形のすきまができていた。下は、茶の間と、風呂場、台所があった。食事は、隣のおばさんがきて作ってくれた。
 どこの家でも、雪おろしは一家総出である。屋根の雪をおろしたあと、下におりて、窓をうめた雪をのけなければならぬ。これを完全におわるには、たいていたっぷり二日はかかった。それなのに、一週間に二回もしなければならないこともあった。一冬、雪おろしを十回以上やることは普通であった。毎日が、雪をのけるためにすぎてゆくようなものである。
 教員住宅の除雪も沢木たちが休みの日には、たいてい自分たちでやった。学校の除雪といっしょに部落の人たちがやってくれるのだが、それもたいてい母親たちで、とてもそんなところまでたのめなかった。屋根の上の新雪は沢木の背たけほどもあった。シャベルと木(こ)すきと呼ぶ用具を使って一ほり一ほりすくってはすててゆく。谷から吹き上げてくる風が、体のすみずみまではいりこんでゆくような感じである。手は赤くはれあがって、まめができている。三人ともだまって、けんめいにシャベルを動かす。夕方になるにつれて、表面の雪は固くなって、シャベルを入れるとパリパリとかわいた音をたてる。
 屋根がおわると、こんどは下におりて玄関とまどの雪をのける。くたくたに疲れて、あたりが夕やみに包まれるころ、びしょびしょになったまま、家の中にはいってゆく、そこには、あたたかい火も、湯もない。のろのろとたきぎに火をつけ、ストーブにかけたヤカンに水をつぎたす。このたきぎも、秋の一日、三人で山からひろってきたものであり、ストーブも学校の古いストーブを、自ら運んできて、煙突をとりつけたものであった。この地の教師たちは、教育よりさきに、自ら生きる場所をつくっていかなければならなかった。びしょびしょにぬれたアノラックからさかんに湯気がのぼりはじめた。
「今ころ、町の方では、カワイコちゃんとふたりで映画でも見てるのになあ」
「わびしいねえ、この文明社会の離れ島という感じだなあ」
 酒がはいると、いつのまにか、ぐちとも嘆きともつかぬことばが、おたがいの口をついて出る。明日はまた学校がある。三人ともそれぞれの部屋に帰って、泥のように眠ってしまうのだ。

 
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