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里の秋 | 悠久録(長岡新聞コラム)

悠久録column

里の秋

 「静かな静かな/里の秋/お背戸に木の実の/落ちる夜は/ああ母さんとただ二人/栗の実煮てますいろりばた」、2番は「明るい明るい星の空/鳴き鳴き夜鴨(よがも)の/渡る夜は/ああ父さんの/あの笑顔/栗の実食べては思い出す」
 秋も深まり、朝晩すっかり冷え込むようになった。この頃歌われる歌がこの『里の秋』である。秋の夜、囲炉裏端で母と二人で栗の実を食べながら遠くの父を思っている。しみじみとした歌である。裏木戸に落ちてきた栗が当たって音を立てる。
 作詞は斎藤信夫、作曲は海沼實。童謡歌手の川田正子が歌い、1948年(昭和23年)、日本コロムビアよりSPレコードが発売されたという。小学校の音楽教科書に長年採用され、2007年(平成19年)には「日本の歌百選」に選ばれた。
 それにしても、この歌に出てくる父さんはどこに行ったのであろう。実は三番の元歌は「きれいなきれいな/椰子の島/しっかり護って下さいと/ああ父さんのご武運を/今夜も一人で祈ります」で、お父さんは南方戦線へ行っていると分かる。
 四番は「大きく大きく/なったなら/兵隊さんだよ/うれしいな/ねえ母さんよ/僕だって/必ずお国を護ります」という戦争賛美の歌だったというのである。
 教師をしていた作詞者斎藤信夫は戦時中子どもたちにお国のために命を捧げよと説いた自らを恥じ、教師を辞めてしまう。たとえ国の政策とはいえ、戦中、戦後を教師として生きた人たちは、教え子を戦場に送った心の痛みを少なからず持ち続けていたにちがいない。(ひこぜん)


※「悠久録」は長岡新聞の一面コラムです。

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